道迷い事例(2023年発生)の検証 2 三重・雨乞岳

雨乞岳については、1年くらい前に一度投稿した記事がありますが、そのときは山全体を考察しませんでした。

今回は、山を考察しつつ、各ルートの状況を見るつもりです。

参考資料:豊川山岳会の道迷い遭難事例https://toyokawa-ac.jp/
     ヤマレコhttps://www.yamareco.com/


 雨乞岳の地図

地図は、国土地理院のweb地図に作画して引用しました。(以下の引用も同様)
https://maps.gsi.go.jp/

凡例

 黒い点線の印字=登山道
 緑色=ピーク(山頂)
 オレンジ色=崖
 赤い線=尾根(実線は明瞭なもの、点線は不明瞭なもの)
 青い線=谷沢(同上)
 斜めに入っている赤い点線=磁北線


雨乞岳の姿かたち

東西南北に尾根が連なっています。山脈群の中の一つの峰です。

ふもとからのアクセスは、主に、東ろく、西ろくになっています。
東ろくの利用者が多いのは、自動車で登山口にアクセス可能な道(鈴鹿スカイライン)が整備されているからです。


登山ルート

1 北西の甲津畑町から谷を登ってきて、杉峠から山頂に至るルート

2 東の武平峠から谷または尾根を登ってきて、東雨乞岳から山頂に至るルート

  尾根を登り下りするルートは、バリエーションルート
  (谷・尾根を周回するルートが近年多くなっている)

  (コクイ谷経由のルートは、バリエーションルート)

3 南の清水頭登山口から登り、南雨乞岳を経て山頂に至るバリエーションルート

4 南の甲賀市の大河原橋から登り、南雨乞岳を経て山頂に至るバリエーションルート


道迷いが多発しているルートは、このうち2の東から登ってくるルートです。
今回は、この道迷いの本丸ルートを検証してみます。


武平峠から山頂へ登り下りするルート(クラ谷ルート)

その1


標高877メートルの場所が、武平峠です。
ここから西に300メートル歩いたところが、登山口になっていて近くに駐車場もあります。ここから北に行きます。


最初の取りつき

尾根をつづら折りで登っていくルートですが、ショートカットして尾根を直登する人もいます。その選択は、お好みです。

ところが、直登したその勢いでそのまま尾根を登っていき、道迷いすることが見られます。

道迷いを防ぐには、事前に地図でルートを精査しておくことが必要です。
挙がっている動画などでピンクテープを頼りに進むというのをよく見かけますが、よくありません。

地図&コンパスを基本として分岐点の手前で確認し、スマホの位置情報や登山アプリで補うという形が理想です。
ピンクテープは、誰がどんな目的でつけたのかが不明なので、それに頼り切るというのはもってのほかだと思います。


斜面トラバース

この地図のその後は、斜面の等高線に沿って進むルートになっています。
等高線に沿って進む結果、登り下りがほとんどなくて、ほぼ平坦な道のりになります。

ただ、平坦イコール安全かというと、そうではありません。

この斜面は、地図から読み取れるとおり等高線が非常に密、つまりかなりの急傾斜になっています。
このようなきつい傾度の場所を、横移動するのはかなり危険です。

道幅が非常に狭いうえに、崩れているところもあり、足を滑らせると斜面を滑落してしまいます。
談笑しながら楽しく、というわけにはいかず、慎重に進む必要のあるルートです。

特に地図の左上にある、谷を渡渉する地点が危険です。
普段は水がなくても雨が降ると水が流れる場所なので、濡れていることが多く、特に滑りやすいと思われます。

道迷いに関しては、あまり危険が無いと思います。
ただうっかりしていると別の道へ行ってしまうことがあるのは、よくあることですね。


その2


いよいよ道迷いの本丸地帯です。
右端に、その1地図の右上部分が重なっています。
特に道迷いポイントとして危険視されている場所が、緑色のマーカーの地点。沢谷峠(標高918メートル)と呼ばれる場所です。


その2の拡大地図


沢谷峠の地形状況

この緑色のマーカーの沢谷峠付近は、等高線の幅が広く樹木もまばらで、予備知識なしで見るとだだっ広く広がって、どこがどの道なのか全くわからないという状態になっています。

この地点には、南東へ下る谷、北に登る谷、北に登る尾根、南に登る尾根、西に緩やかに下る谷の、5方向への分岐があります。

人は、何の意識もなく漫然としたり道迷いをしたりしている状態では、極端に登るか、極端に下るかの選択をしてしまいがちです。
ピンク色の矢印群は、選択を誤った方角を記しています。
(南の尾根に登るルートは、バリエーションルートとして少なくない人数が利用しています。情報を知ったうえであえて選択しているのなら問題はありません。知らないで迷い込むことが問題なのです)

山頂に向かう正しい方角は、西の緩やかに下る谷の方角です。
この予備知識があれば、迷うことはありません。
「西の谷に向かうんだ」という意識があれば、とても容易なルート選択です。


地形を意識しない、意識できない人の存在

ただ、普段から地形が目に入らない人も、一定数います。
そういう人は登山を避けたほうがいいのですが、他人の趣味に口を出すのは憚られます。

できる限り知識を持ったほうがよいでしょう。
例えば「谷とは何か?」を知れば、危険度が下がります。
谷は、基本、V字形に切れ込んでいます。
左に斜面、右に斜面。その間の細い道が、谷です。

    (谷の例です。この写真では、最深部の右に少し離れたところに道があります)

この沢谷峠から西に下っている谷は、谷幅が広く、うっかりしていると見落としてしまいます。

狭い視野で風景を見るのではなく、広い視野で見ることを心がけましょう。
樹木に惑わされず、樹木をないものとして見るのです。幸い、この辺りは樹木がまばらなので、そういう視点が容易に取れます。

霧やガスがあり視界不良のときは、予備知識と地図&コンパスと位置情報が必要です。


事前情報を持っていないとき

残念ながら予備知識がなかった場合は、万事休すです。
しかし、「沢谷峠」というネーミングに注目すると活路が開けるかもしれません。

この地点の地形は、南北ラインでは北の山と南の山の間の鞍部(コル)になっていますが、東西ラインでは南東から登る谷と、西へ下る谷との間、つまり峠越えになっています。
峠越えが正しいルートだと考えると、自ずから行くべき道が見えてきます。


今回の道迷い事例の場所は

この拡大地図の一番左の赤いマーカーの地点で、山頂の方角(左)から下ってきて、ここで南にターンするべきところを、誤って北にターンしてしまったものです。

方角を180度も間違えるというのは、通常の心理状態ならありえません。
しかし道迷いをして混乱していたら、ありえます。

防ぐには、ここが分岐点であるという情報を事前に手に入れ、その分岐点の手前で地図&コンパスで行くべき方向を確認し、そして選択して南進し東の谷へ登る行動をとります。


その3


クラ谷に沿って歩く、ルートです。

赤いマーカーは、迷いポイントです。
そこから矢印の方向に、迷うあるいは選択する人が少なからずいます。
南に行く矢印は、南のバリエーションルートから北上してくる逆方向の可能性もあります。


その4


クラ谷を経て、雨乞岳に登る区間です。

北東方向にある七人山に登ろうと、いろいろな場所からアプローチがかけられています。
この中には、山から下りる際に方角を間違えて下りてしまったものもあるかもしれません。

クラ谷を出た後、西に尾根を登る際に、北へ行こうとする人もいます。
なかには、北の崩落しているところを通ろうとする人もいるのですが。


ルートのアップダウン図


緑色は、同じ等高線内の道。
ピンク色は、急登か、それに近い傾斜の道。

武平峠から山頂まで4キロメートルの道のりですが、その高低差は、1237-877。
実質的に、標高360メートルの低山に登っていることになります。

この地図を冒頭に出すと、「あ。ここは初心者用の簡単な山か」という誤解を生みかねないので、あえて後に回しています。
というか、載せないほうがいいのではと思ったりしました。


沢谷峠~東雨乞岳のバリエーションルート

1年くらい前にも同じような内容を投稿しましたが、内容が煩雑だったので、ここで改めて投稿し直します。


全体図


地図内に赤い線で記したところが、そのルートにあたります。

この赤い線は、尾根を表しています。緑色のピーク(山頂)群をつなぐように伸びています。
このルートは、この山頂群を巡るものになっています。

ただよく見ると、三人山付近や、ピーク967付近の赤い線が、途切れています。
この途切れが、道迷いの原因になっています。


ルートのアップダウン状況


クラ谷ルートに比べ、急登部分と平坦部分が交互に来る、登ったり下ったりの盛んなルートだと分かります。

帰りの下りには不向きで、山頂に登るときに使うとよいといわれるゆえんです。


道迷い状況


赤いマーカーの地点が、いわゆる道迷いポイント。
ピンク色の矢印が、迷った方角を示します。

迷い矢印が非常に多いことに、注目です。
この中には、迷ってあらぬ方角に行ってしまったもののほかに、登り下りの繰り返しを嫌ってエスケープしたものや、その方角を意識して選択したものも含まれます。

いずれにしても、このルートの周辺には人の踏み跡が無数に存在し、ルートを正しく(バリエーションルートなのでどれが正しいか不明ですが)歩こうとする人を妨げています。


道迷い状況拡大図その1


東雨乞岳の山頂自体から方角を誤っている人がいます。

山頂から30メートル下りたからは、東に尾根が伸びていて、その尾根に誘引される人がいます。

その下、130~150メートル下りたからは尾根が伸びていないのですが、なぜかルートを北に外れてしまう人がいます。

三人山の近くのの西に谷が下っているのですが、そこに誘引される人がいます。
ただこの谷は、かなり険しく断崖のような谷です。

ピーク1014の三人山には、南北2つのピークがあります。
北のピークからは東に尾根が伸び、南のピークからは南に尾根が伸びています。
そしてそれぞれ、尾根に誘引されるピンク色の迷い矢印があります。
この三人山からに降りるルートは、選択が少し難しい道です。

拡大図その1のさらに拡大図


三人山の南北ピークからに下りる道は、この自然地形図には明瞭にはありません。
これが、迷う原因の一つになっています。

正しい道は、三人山の北ピークから東南東に伸びる、青い点線です。南ピークから降りるときは、この青い点線に向かって進みます。
青い線なので谷ですが、点線なので不明瞭です。
道としては、少なくない人数が歩いているので人の踏み跡が多数あります。

ピークの山容は、緩やかです。つまり、道が不明瞭です。
の方角も、その他の方角も、どこに道があるのか分かりにくいです。

この辺りから北へ向かう矢印が多くなりますが、恐らくエスケープだと思われます。
エスケープ自体は良いのですが、ただ思いつきでエスケープすると未知の危険なところを歩くことになる恐れがあります。


道迷い状況拡大図その2


から北ないし北東に伸びる尾根や谷に向かう迷い矢印が、多数あります。
迷っているのか、エスケープしているのか、定かでありませんが、これほど多くのルート外れのほうが異常ですね。

ピーク967からは、南に尾根が伸びています。
この南に行っても何もないので、このそのまま南に行ってしまう迷い矢印は進行方向が惰性となっての誤った直進かもしれません。
そう考えるとから北にエスケープするのは、ひょっとすると「ルート南進?怪しいな?帰る方向は東なのに」という地図読みの最小限ができる人が、やむなくルートから撤退しているように見えます。

ピーク967からに至る道も、自然地形としては不明瞭です。
しかしここから明瞭に伸びる北東尾根に迷い込む人がいないのが、不思議です。
南に転向して、後ろである北東に戻る選択肢はないのでしょう。

から北に伸びている谷に誘引される人が、います。
はコルで、両側に下る谷にそれぞれ誘引される人がいます。

は、迷いがすさまじいですね。

拡大図その2のさらに拡大図


から北に伸びる全ての尾根や谷へ、人々が多く誘引されています。
数あるピークのラストなのですが、「登るのはもう嫌だ」と言わんばかりのエスケープかもしれません。
ただその北に至る道の等高線を見てください。とても密です。急傾斜の下りです。転倒の危険があります。

このでは、ピークを遠回りする巻き道を探す人も、います。
巻き道=平坦≠安全、ということを思い出しましょう。
ここの平坦な道は、等高線が密な急傾斜の斜面を横に歩く細い道です。

いっぷく峠を下れば、沢谷峠です。
南でなく、北東に下ります。

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