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地形図遊びの応用~具体的な遭難事故の検証 1 大峰弥山からの帰途十日間遭難

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 1つの道標をきっかけに起こった、2022年8月の道迷い遭難の事故です。 その道標とは。 https://www3.nhk.or.jp/news/special/jiken_kisha/anshin/anshin14/ (引用元)  この写真の後方から来て、直進しないといけないのに左に曲がってしまった結果、道迷いを起こし遭難した事例です。  道標・標識はそれを設置した者の意向や思惑の目的のために存在するものであり、全ての登山者の目的とは合致しないことを知っておく必要があります。  この道標を設置した奈良県五條市は、市内の当時マイナーだった観光地「トップリ尾」を紹介宣伝する目的でこれを設置しました。直進すると天川村の川合に行くのですが、五條市は「隣村の地名は設置目的に関係ない」と考え直進する方向の標識を付けませんでした。正直この態度はまるで民間営利企業のような誘引行為であり、公共団体としては不適切なものといわざるを得ません。  このように、道標や標識は100%信用してはいけないのです。  さて、この事故を地形図遊びの点から検証してみましょう。(事故を遊びの点からという表現は不謹慎なように見えますが、この遊びは事前準備・危機管理に不可欠な行動だとするのがこのブログの目的です)  この遭難した登山者は、北からこの弥山に来て、その後、八経ヶ岳、明星ヶ岳を経由し北に帰るというコースを予定していたようです。  そしてその帰り道、地図の赤いマーカーの場所で上記の標識を見て、道の選択を誤り道迷い遭難を起こした模様です。  この登山者は登山経験が豊富だったということですが、地図を携行していなかったうえに、スマホに登山アプリをダウンロードしていなかったという準備段階の大きなミスをしていたとのことです。  では、この赤いマーカーの場所を、地形図遊びしてみましょう。  この地形図では、このルートは南北に連なる一本の登山道しか表示されていません。だから地形図だけをパッと見ると「ああ、一本道か」と思ってしまいますね。  しかしこのブログの地形図遊びをすると、なんと5方向への道の分岐点だということが分かります。ここは初見だと、道選択がかなり難易度の高い迷いポイントだと思います。  この登山者は、過去ここを通って南から北へ歩いたことがなかったといいます。  よく見ると、南北の登山道以外は破線の赤線

登山準備としての地形図遊びのすすめ 2

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この一連の記事については、Youtube動画を投稿されているこの方の動画を参考にしています。 https://www.youtube.com/@NaviGYM/videos# この方は、一般市民向けに地形図の読み方やコンパスの使い方をレクチャーされていて、油山はこの方の活動拠点になっているようです。 この方の地形図解説は、数ある同じようなものの中では断トツの分かりやすさだと思います。 また油山を私が地形図で調べたところ、非常に学びの多い山だと思ったので説明例として取り上げました。 それでは、前回の続きです。 前回ラストのほうで示した油山の東側の登山ルートの一つの、地形図です。この図に、新しくAからFまでの記号を各マーカーに添えて書き込んでいます。 ルートの不自然に直角に曲がる各ポイントには、それぞれ直角に曲がる理由があります。実際に赴いてその理由を確かめるのがいいですが、ここでは登山準備段階での下調べとしての地形図遊びをテーマにしているので、この地形図から想像できる理由を説明してみましょう。 左端が山頂方面、右端がふもとの方面です。AからFへ下っている時を考えてください。 DとEは理由が明確です。歩いている目的は下山です。だから直進しません。 F(赤いマーカーが消えてしまっています。すみません)は、明らかにおかしいです。そのまま直進すれば下山まっしぐらなのに。これは前に山が立ちふさがっているから、直進できないことが等高線から読み取れます。 AとCは等高線の地形的にはそのまま直進したほうが早く下山できそうなのに、曲がっています。これは進行方向に危険なもの(急斜面や藪など)が存在しているので、それを回避したと思われます。 Bは、直進するよりも右に曲がるほうが地形的に素直だからと読み取れます。 と、地形図を見て遊ぶだけで、このように風景を想像して登山の準備ができます。 私が地図に赤いマーカーを付けた地点を、私は「道迷いポイント」と呼んでいます。分岐点と直角曲がり点を併せると、次のような地図になります。 この油山の東側登山ルート上の赤マーカーの数は、17個。これが、この登山ルートの道迷いポイントの数になります。言い方を変えれば、遭難につながるリスクの回数が17回あるということになります。 その多くのリスクを回避するには、どうすればいいでしょうか。その赤いマーカーの場所がル

登山準備としての地形図遊びのすすめ 1

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 ここからは、登山の準備段階での登山シュミレーションのやりかたを、具体的にレクチャーしたいと思います。とても楽しく遊びながらできますので、ぜひ、やってください。  まず、インターネットで国土地理院が公開している地形図を、パソコンの大画面に開きます。  この地形図は非常に大きく拡大可能な優れもので、しかも作図ツールにより自由にいろいろな色を使って線を引いたりマーカーを付けたり文字を書き込んだりすることができるものです。  次に、登山目的の山を検索し、その地域の地形図を表示します。例えば次のように。 (福岡市早良区の油山)  これは、福岡市の早良区にある油山という標高597メートルの山を中央に位置させて表示したものです。  ここに、いろいろと書き込んでいきます。  まずは、油山の頂上を拡大表示し、等高線が丸く閉じているところを見つけます。その丸い部分を、緑色の太い線で色付けしてみましょう。作画ツールを使います。 (最大拡大表示) 山頂部分が三角形という、とても特色のある山だと分かりました。南南東方面に少し長く伸びた形です。地図上の黒色の破線は、一般的な登山道です。この山頂には、3つの登山道が3つの方向から山頂に向かっていることが分かります。 次に、登山道の特色を調べましょう。登山するにあたりどの道を現場で選び歩くことが重要です。選ぶ、つまり他の道との分岐点を調べます。分岐点を見つけたら、マーカーを打ちます。 赤いマーカーがそこらじゅうにありますね。この分岐点が、登山をするうえで最も大事な場所です、この選択を間違えると、場合によっては命を失う危険に直面するからです。 次に、分岐点以外の場所にも赤いマーカーを付けましょう。登山道の中の、直角に曲がる場所にです。なぜそんなところに付けるかというと、これは人間の通常の行動心理なのですが人間は普通まっすぐに歩きます。指示がない限り、曲がりません。よって、道が直角に曲がる場所で、登山者はまっすぐに行く間違いを犯す可能性があります。 一部を拡大しましょう。 登山道が急に直角ないし鋭角に曲がっている部分を、マーカーで示しています。普通はまっすぐに道があるはずなのに、なぜ曲がるのか。もちろん、曲がらないといけない理由があるからです。 なんだか楽しくなってきました。遊びながら、上り下りする予定の道の特色を調べているうちに、その道の詳細をいつ

登山をしようと思った時、あなたはその山をどう思っていますか?

 最近、登山に当たり遭難する人が増えています。その人たちの多くが、地図(スマホアプリのYAMAPやヤマレコを含め)を携行していなかったり、コンパスを持っていなかったりといいます。地図を携行していても、観光パンフレットの地図や、大ざっぱな地図だったりします。登山の常識からは信じられないという事態です。  また、地図を携行しあらかじめ地図を見て下調べをするという人の中にも、自分が上り下りするルートだけを見て他のルートをまったく調べないとか、その予定ルートがどのような特色を持っているのかをまったく調べないとか、というふうな人もいます。  そして、これは登山をする多くの人にあてはまることだと思いますが、その登山をする目的の山のことを大ざっぱにしか理解していない人があまりにも多すぎる状況です。  登山をする皆さんは、その目的の山に対し本当に愛着を抱いているのですか?  その山に対し愛着を持ち自らの身体で上り下りしたいというのなら、あらかじめその山の<詳細な>特色を地形図で調べるべきだと思うのです。  地形図は難しいので理解できないという人もいます。しかし厳しくいうと、地形図を理解できない人は登山をしてはいけません。  登山の失敗つまり遭難は、命に関わるからです。