道迷い事例(2023年発生)の検証 1 佐渡・金北山

 豊川山岳会が公表している道迷い遭難事例を参考に、それぞれを地図をもとに検証していきます。https://toyokawa-ac.jp/

登山者のルート選択状況は、登山アプリ「ヤマレコ」を参考にしました。
https://www.yamareco.com/

今回は、佐渡にある金北(きんぽく)山(標高1172メートル)で発生した道迷い遭難を採り上げます。


山の概要


国土地理院のweb地図に作画して引用しました。(以降の引用も同じ)
https://maps.gsi.go.jp/

凡例

 黒い点線の印字=登山道
 緑色=ピーク(山頂)
 オレンジ色=崖
 赤い線=尾根(実線は明瞭なもの、点線は不明瞭なもの)
 青い線=谷沢(同上)
 斜めに入っている赤い点線=磁北線
となっています。

状況

山の南西麓には自衛隊や防衛省の施設があり、山頂にも防衛関連の建物があります。

山頂に至る登山道は、南からのルート2本と、西からのルートと、東からのルートです。
東からのルートは、ドンデン山から連なる稜線上を行く縦走路です。


道迷いをした箇所

今回道迷いが起きたのは、南からのルートにおいてです。
栗ヶ沢登山口、姫が沢登山口、沢口登山口から来るルートです。

<主な登山ルートの状況>

この南からのルートは、標高678メートルのピークの北西ろくで、北へ行くルートと、東へ行くルートに分岐します。
東へ行くルートは、その後、北に方角を変えて山頂を目指します。

この南からのルートのうち、西を行くルートは地形的に谷沢(ただし不明瞭)を利用したルートといえます。

それに対し東を行くルートは、尾根を利用したルートであることが読み取れます。

<ルートの傾向>

登山者数の状況を調べると、東を行くルートのほうが人数が多く、この標高678メートルのピークの北西ろくの分岐点で多くの人が東にターンしています。

今回採り上げる道迷いは、この分岐点(東に曲がる場所)を間違えたという事例です。


道迷いをした地点の拡大地図


凡例

A・Bの緑色のマーカーは、登山道同士の分岐点を示しています。
aからfの赤色のマーカーは、迷いやすい地点を示しています。


ルート説明

Aで東の分岐道を選択し、Bで東からの道(横山登山口から来るルート)と合流して山頂を目指すのが比較的多数の人が登っているルートです。

地図では、他に道が無く、迷いようがないように見えます。


迷いポイントがいくつかある

しかし自然の地形を見ると、実は迷いやすい状況が見えます。
赤いマーカーの地点が、迷いやすい地点、あるいは実際に迷っている状況が見える地点です。


<a>

斜面を直角に北東方向に登った後に、北にターンして等高線と等高線の間(比較的平坦なところ)を少し行くというルートになっています。

ところが多くの人が、北東方向に登ったその勢いというか惰性というか、なぜかそのまま直進して次の等高線をまたいで登っている傾向が見えます。
ただ直進した先が<b>なので、結果として迷っていない、ショートカットしただけという結果になっています。


<b>

登山道は、ここから北東方向へ等高線を2本またいで登り、Aの分岐点に向かうルートになっています。

ところが少なくない人数が、なぜか北東方向に曲がらずそのまま北方向に直進し、北にある谷の中に入り込んでしまっています。(途中で行き止まりになり、引き返している状況)
なぜ、こんなことが起こっているのでしょうか。

「人は、尾根や谷に誘引される」というのは、よく聞くことです。
ただそれは、道迷いに陥ったときに、飲み水を確保するためあるいは山から早く下りたいという心理で谷に降りたり、谷に降りてはだめだ登り返さないといけないという心理から尾根を登ったりというものです。

道に迷っていないときは、人は、通常、直進する傾向があります。
<b>の場合は、登らずに、正面の平坦な道を選択してしまっています。

山に登りに来ているのに、なぜ平坦な道を選んでしまうのでしょうか。
これは特に、他人と談笑しながら歩いていたり、一人でもぼうっと漫然と歩いているときに起こりがちです。
そういうときは、人の足というものは体力的に楽な方向、そして木々がなく視界が開けている方向に向かってしまうのです。
また健脚で足が速い人は勢いよく歩くので、曲がり角を通り過ぎて(目に入らない?)直進してしまう傾向があります。

<a>の直進傾向も、これと同じ状況といえるでしょう。

防ぐには、あらかじめのルート調べや、歩いているときの綿密な地図・地形確認をします。


<c>

ここでは北北東方向に行かないといけないのに、なぜか東にターンしてしまった、というのが、今回の道迷い遭難事例です。

これは、通常では理解できない選択の誤りです。
ただ周辺は、広葉樹林帯です。

           (画像は、写真ACの著作権フリーのものです)

この写真のように、広葉樹林帯は見通しが効きません。
東にターンしなければいけないという意識が強い時に、そこにいわゆるピンクテープがあったというのが遭難した人の感想ですが、そういう場合に「ここかな?」という意識が働くというのはしかたないことでしょう。

迷うのはしかたないとして、その後の地形を注意して、あらかじめ調べていたルートと異なることを早急に気づくしかありません。


<d>

ここでは、登山道がこの先、今まで進んでいた谷道から西隣にある尾根の上に乗っかるという、あらかじめのルート調べが、登山者の頭にあります。

そこで起こっているのが、この地点で早まって西の尾根へ乗っかってしまったというものです。
ここから<e>、<f>という登山者の、少数ですが人の流れがあります。

結果としては正しいルートに戻っているのですが、登山道として皆が歩いているところと異なる場所を歩くのは、危険を伴います。
皆が歩くルートは、つまりそこが比較的安全だから選ばれているといえます。
踏み跡があるからといって、正規のルートから外れた方向へ行くのはできる限り避けたほうがいいでしょう。


金北山の山頂付近


<C>

山頂には、防衛省の施設があるため、西側から登るとてもきれいに整備された道があります。
山頂だけを目指して登るなら、白雲台から尾根を登る西ルートがいいでしょう。

この東方面のルートが、多くの登山者が利用している道です。

この南側には、多くの雨裂があります。

<A>

栗ヶ沢分岐と呼ばれる分岐点です。

南からの尾根を利用した登山ルートは、<B>に登る谷筋ルートに比べて、比較的多くの登山者が利用しています。

東からの稜線尾根ルートは、ドンデン山からの縦走路として人気のあるルートです。

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