遭難事例の検証3 人は真っ直ぐに行きたがる(和名倉山、対馬見山)

有名動画サイトで「道迷い」と検索すると、いろいろな動画が上がってきます。そのなかに、動画をアップしている人が体験したいわゆるプチ遭難も出てきます。
今回は、そのプチ遭難事例を参考にして、国土地理院のweb地形図を手がかりにいろいろと作図してそのようすを検証したいと思います。
https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html

参考動画の内容は、引用しません。詳しい内容を知りたい方は、有名な動画サイトで「地名」「道迷い」で検索してください。

[1]奥秩父、和名倉山付近










和名倉山(白石山)に南西方面から登る途中にある、ピーク東仙波。
一般登山ルート(ピンク色の太い線で作図)の特色は、このピークに西から入って、ここで北に直角ターンするものです。

このピークは、非常に特徴のある場所です。
明瞭な尾根が西、南、東の三方に出ていて、閉じた等高線が5本(50メートル分)あるという、独立峰的なピークです。
またこの付近は、かつて伐採が進みさらに山火事もあって植生が貧弱になった(つまりハゲ山化)した結果、眺望がかなり良いので、人気のある場所です。

では、登山ルートを検証します。















地図を拡大しました。
地図(アプリor紙)を携行し、現在地を逐一確認していて、コンパスを所持し、十分な下調べ(ルート付近の地形の調査、ルートの特色、迷いやすいポイントのチェック)をしていて、当日晴天で日中であれば迷うことは一切ない分岐点です。

心配な点は、あることはあります。
北に降りる登山道が、明瞭でないことです。

<迷いやすい方向>
道が明瞭であるというのは、ぱっと見た感じはっきりと道が有ることが認識可能という意味です。
尾根道や、踏み跡のある道が、それに当たります。
人には、まっすぐ歩こうという意識と、見える道を歩こうという意識があります。また平坦なところを歩きたいという意識もあります。

ここだと、西から来た登山者は、地図無し、事前準備無しの状態だとまっすぐ直進し東の尾根に行ってしまうことでしょう。
ただ明瞭な尾根とはいっても、ピーク付近は広がりがありそれほど明瞭とはいえません。
実はこの東のピークへ行く道は、マイナールートとして人の行き来が意外とある所です。踏み跡が多いので、何も情報のない人は誘引されてしまいます。

<中途半端に知識があることの危険>
「東仙波では、進行方向の左に曲がるんだ」という情報を持っていたとします。情報としては、最低限の内容です。
さて、人にとって「左」とは、どの方向でしょうか?

人は、真正面以外は、全て左か右で処理して思考します。
その結果、左斜め前も左、左斜め後ろも左と判断してしまいます。

この東に延びる尾根は、その出発点が左斜め前から始まっています。
左斜め前を左と思い進むと、自分では東に進んでいるという感覚がないまま、東の尾根に入り込んでいってしまいます。
あるいはその東尾根上の自然の分岐点から、左にある支尾根に入り込んでしまう危険もあります。

和名倉山へターンする方向が、事前の調べで真北と分かっているか、コンパスを持っていてここから磁北の方向だと定められたときに、初めて「左方向」という情報が正確さを帯びます。


[2]福岡県の、対馬見山















迷いやすい山として紹介されたことがあります。
標高250メートル前後の低山です。

低い山なので、どこに迷う要素があるのかと疑問に思うでしょう。
しかし低い山は人があまり訪れないので、標識がないことが多いのです。

人間向けの地図には人が通るのにふさわしいルートだけが書かれています。
しかし自然の地図では、自然の道が書かれています。具体的には、尾根や谷です。
この対馬見山の頂上付近を見ると、東西に2つのピークがあります。
その西のピークからは、実に7本の自然の道が分岐しています。あらかじめ地図で下調べをしていない、当日地図を持っていない、標識がないという場合は、どちらに降りたらいいのかさっぱり分からないことでしょう。

上の地図の右下部分を拡大しました。
この南にある山から、南北に延びる尾根線をたどって対馬見山へ行くルート(ピンク色い)です。

ここが、かつて迷いやすいといわれていました。

はあ?
北に延びる一本道で、他の方角に曲がる余地はないと思うのだが?
という疑問を持ちます。

このピンク色のルートをよく見てください。
緑色の太い小さなピークの東端をルートが通り、ちょい(微妙に)西に少し曲がった後、再び北に転じて対馬見山に登っていくものです。
このちょい西に曲がる辺りで、道迷いが多く発生していたのです。

人の習性として、まっすぐに行きたがる、平坦な道を行きたがるというのがあります。
身体を曲げてターンすることや、上り下りを回避したいという気持ちが働くのです。
するとこの西にちょい曲がるターンを怠り、直進してしまいます。

自然の道には、尾根道、谷道の他に、等高線に沿った道(多くは平坦な上り下りの少ない道)があります。
このちょい西に曲がらない、直進する方向には、等高線に沿った自然の道があります。
(あります、という言い方は正確でないです。多くの人が直進したため人工的にできてしまった、が正確です)

さらにちょい西に曲がった後、再び真北に転じないといけないのに、そのまま西に進んでしまうという人も、いたようです。
これも、人の平坦道を直進する癖を表しています。
    ↗→→→ A
→→→→→→→→ B
    ↘→→→ C
人は、真ん中Bを選択しがちです。進んできた方向をそのまま維持したいという心理が働いています。また東洋人独特の中庸(ちゅうよう)思考もあります。

こういう人が持つ心理傾向を持ったまま、地図無しで登山をすると道を誤るのは当然です。
誤りを防ぐには、あらかじめルートを丁寧に調べることが必要です。
もちろん地形図には限界があり、小さな細かな地形は書かれていません。
しかしこの場合だと真北(どちらかというと磁北)に行くんだ意識があれば、コンパスを持っているなら防げます。
(スマホの登山アプリやGPSは電池切れの恐れがあるので、不安な時や迷ったと感じたときしか使わない、つまりこまめに使うことができず、役に立たない)

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