登山準備としての地形図遊びのすすめ 2

この一連の記事については、Youtube動画を投稿されているこの方の動画を参考にしています。
この方は、一般市民向けに地形図の読み方やコンパスの使い方をレクチャーされていて、油山はこの方の活動拠点になっているようです。
この方の地形図解説は、数ある同じようなものの中では断トツの分かりやすさだと思います。
また油山を私が地形図で調べたところ、非常に学びの多い山だと思ったので説明例として取り上げました。

それでは、前回の続きです。

前回ラストのほうで示した油山の東側の登山ルートの一つの、地形図です。この図に、新しくAからFまでの記号を各マーカーに添えて書き込んでいます。
ルートの不自然に直角に曲がる各ポイントには、それぞれ直角に曲がる理由があります。実際に赴いてその理由を確かめるのがいいですが、ここでは登山準備段階での下調べとしての地形図遊びをテーマにしているので、この地形図から想像できる理由を説明してみましょう。
左端が山頂方面、右端がふもとの方面です。AからFへ下っている時を考えてください。

DとEは理由が明確です。歩いている目的は下山です。だから直進しません。
F(赤いマーカーが消えてしまっています。すみません)は、明らかにおかしいです。そのまま直進すれば下山まっしぐらなのに。これは前に山が立ちふさがっているから、直進できないことが等高線から読み取れます。
AとCは等高線の地形的にはそのまま直進したほうが早く下山できそうなのに、曲がっています。これは進行方向に危険なもの(急斜面や藪など)が存在しているので、それを回避したと思われます。
Bは、直進するよりも右に曲がるほうが地形的に素直だからと読み取れます。

と、地形図を見て遊ぶだけで、このように風景を想像して登山の準備ができます。

私が地図に赤いマーカーを付けた地点を、私は「道迷いポイント」と呼んでいます。分岐点と直角曲がり点を併せると、次のような地図になります。

この油山の東側登山ルート上の赤マーカーの数は、17個。これが、この登山ルートの道迷いポイントの数になります。言い方を変えれば、遭難につながるリスクの回数が17回あるということになります。
その多くのリスクを回避するには、どうすればいいでしょうか。その赤いマーカーの場所がルート上のどこにあるのかを事前にチェックしておき、その場所に来たら立ち止まり自分が目指す目的につながる道を選択すればよいのです。
選択する際には、携行している地図とコンパスで決めてもよいし、YAMAPやヤマレコなどのアプリに頼ってもいいです。
ただ「こちらにピンクのテープがあるから」「こちらに踏み跡があるから」という理由で道を選択するのは、控えるべきです。テープを付けた人がどんな目的で付けたのか不明であるし、また踏み跡も何の目的でそこを歩いたのかが不明だからです。またしっかりとした標識がある場合も、その標識が自然災害の影響で歪んだ可能性もあるのでそれに頼ってはいけません。もちろん何度も上り下りをし覚えているのなら自分の記憶に頼ってもいいでしょうが、記憶も時と共に薄れるので過信してはいけません。

さて、この油山の東登山ルートの道迷いポイントは上記の数だと結論付けるのは、まだ早いです。上記に挙げたのは、この登山ルート自体の特色に基づくものでした。
しかし大自然に目を向けてみると、この登山ルートは数ある自然の道のうちの一本に過ぎません。自然の道は無数に存在し、この登山ルートと重なったり交わったりしています。
登山案内や観光パンフレットだけを見ると登山道は上記の地図のように一本線で描かれているので、ついつい「ここの登山道は迷わず行ける一本線だ」と思い込んでしまいます。
しかし実際に歩いてみると、いろいろな自然の道が複数あり分岐しているのが普通です。これが、道迷いによる遭難を起こす理由の一つにもなっています。

この自然のいろいろある道をどう見極め選択すればよいか。そのヒントは、地形図に書かれています。
地形図には、同じ標高を線で結んだ等高線が書かれています。その形を読み取れば、自然の大まかではありますが地形を想像することが可能です。

先ほどの地図でいうと、この線たちです。この地図は地形図としては普通の地図で、細い線は標高10メートルごと、太い線は標高50メールごとです。その数値は50、100、150とキリのいい数字になっているので、分かりやすいです。
この地図だと、油山の東側の太い線は、550メートル、500メートル、450メートル、400メートル、350メートルの5本あります。

等高線の形からどういうふうに自然の地形を読み取るかの方法は、山頂(緑色)をまず確定し、その山頂に対し等高線がどのように湾曲しているかを見ます。
すると、
   山頂>>>>>ふもと
   山頂<<<<<ふもと
という湾曲部分がところどころにあるのが分かります。(ほとんどない場合もあります)
山頂>>>>>ふもとは、尾根(両側が谷・沢)を表します。
山頂<<<<<ふもとは、谷・沢(両側が尾根)を表します。
尾根は凸地、谷・沢は凹地です。沢は、谷のうちの細いものや短いものを指します。谷は太くて長いので初めから地図に青い線で表記されますが、沢は通常地図に表記されません。

この尾根や谷・沢がこの地形図に載っていますが、ぱっと見は見えません。そこでこの地形図遊びではそれが見えるように色の付いた線を引きます。尾根には赤い色の線を、谷・沢には青い色の線を引きます。(この色分けは、上記Youtuberの方のものを参考にしています)
この方法で油山の山頂付近に作図すると次のようになります。

どうですか。尾根・谷沢共にたくさん、ありますね。まさに山あり、谷あり(笑)

実線と破線の区別があります。これは、明瞭か不明瞭かの区別です。
地図内のA・B・Cは狭く細い尾根、つまり明瞭な尾根なので、実線の赤です。
それに対しD・Eは広く太い尾根、両側の谷が見えない不明瞭な尾根なので、破線の赤です。

この山では山頂近くに明瞭な谷がないので、青い線は全て破線の青になっています。Bの近くの谷は、少し東に行くと明瞭な鋭い谷になるので少し先から実線の青になります。

地図内の黒い破線は登山道です。山頂付近の登山道とこの尾根・谷沢の合流点に赤いマーカーを付けると、次のようになります。

この赤いマーカーが、「迷いポイント」になります。尾根・谷沢は見た目、道に見えるからです。黒い色の登山道は、その自然の尾根を利用していることが分かりますね。
この付近だけでも十数か所の迷いポイントがあります。登山者は特に下山時に、よほど気をつけないといけません。十メートルずれただけで、まったく違う場所に下りたり、危険な場所に導かれたりします。

実際の登山者の足跡を、ヤマレコで見てみましょう。

橙色の点が登山者の踏み跡です。主要登山道に集中していますが、油山の山頂付近には登山道ではない谷沢に迷い込みかけて戻るという踏み跡が、少しですが見られます。
この油山は地元の自治体により登山道がかなり整備されているようですが、それでさえ迷う人がいるのです。
なお上のほうで紹介した東側のルートには踏み跡が少ないですが、ここはいわゆるバリエーションルートで少し難しい登山道です。途中まで行って断念している踏み跡が非常に多いですね(笑)。このような地形図遊びを事前に入念にする必要があるルートといえます。

このマイナーな東側ルートの迷いポイント表記の地形図が、これです。

迷いポイントが実に30か所近くあります。事前の地形図遊びをしていないと、遭難してしまいます。
パソコンで遊ぶことのメリットとして、この色のままその場でプリントアウト可能なところがあります。登山に持っていけるのです。できれば

このように拡大したものもプリントアウトしたいものです。

さあこれで準備は万全か…というと、そうではありません。
他の登山ルートや自然の道々(尾根・谷沢)も同じように、地形図遊びをしましょう。人間は100%間違わないという保証はありません。迷ったとき元の道に戻るかその道をそのまま行くか、どちらにしても迷った先の道の情報を事前に知っておきたいものです。
幸いなことにこの登山準備としての地形図遊びは、とても楽しいものです。ぜひ皆さんも遊んでみてください。

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